会話力を上げる質問術|相手の心を開くナラティブ・クエスチョンの使い方
「せっかくの会話なのに、すぐに話が途切れて気まずい空気が流れる…」
「相手がなかなか本音を話してくれず、表面的な会話で終わってしまう…」
「もっと相手と深い関係を築きたいのに、どうすればいいか分からない…」
このような悩みを抱えて、コミュニケーションに苦手意識を持っている方は少なくないでしょう。もしあなたが一つでも当てはまるなら、その原因はあなたの「話し方」ではなく「質問力」にあるのかもしれません。
会話上手な人は、自分が話すことよりも、相手に気持ちよく話してもらうことに長けています。そして、そのために使っているのが、相手の心を開く特別な質問術です。
それが、この記事のテーマである「ナラティブ・クエスチョン」です。
ナラティブ・クエスチョンとは、単に事実を確認するのではなく、相手の経験の背景にある「物語(ナラティブ)」を引き出すための質問です。この質問を使いこなせると、相手は自然と自分のことを話したくなり、あなたへの信頼感も深まっていきます。
この記事を読めば、あなたは以下のことを手に入れることができます。
- 相手が思わず話したくなる「ナラティブ・クエスチョン」の作り方
- 初対面からビジネス、プライベートまで、すぐに使える場面別の質問例
- 会話の質を劇的に変える、質問術を支える心構えとコツ
もう「会話が続かない」と悩むのは終わりにしましょう。この記事を読んで、相手の世界を旅するような、豊かで楽しい会話術を身につけてみませんか?
なぜ質問力が会話力を左右するのか
そもそも、なぜ「質問力」がそれほどまでに会話において重要なのでしょうか。その理由を3つの視点から掘り下げてみましょう。
会話は「答える」より「引き出す」が重要
私たちは「会話力=流暢に話す力」だと思いがちですが、実はそれは大きな誤解です。本当に会話が上手な人は、自分が話す時間より、相手が話す時間の方がずっと長いのです。
会話の主役は、常に相手です。良い質問は、相手という主役にスポットライトを当て、その人が持つ知識、経験、感情といった宝物を「引き出す」ための最高のツールとなります。自分の話ばかりする人は、相手の宝物を見ようとせず、自分のコレクションを一方的に見せつけているのと同じです。それでは、相手は退屈してしまいます。
相手に気持ちよく話してもらうこと。それこそが、会話を盛り上げ、相手に「この人と話すと楽しい」と思わせるための最も重要な本質です。
相手の心を開くために必要な信頼の構築
人は、自分に興味や関心を持ってくれる相手に、心を開く生き物です。良い質問は、言葉以上に雄弁に「私はあなたという人間に興味があります」というメッセージを伝えてくれます。
例えば、誰かが「最近、キャンプに行ったんです」と話したとします。
「そうですか」で終わらせるのと、「へえ、キャンプですか!どんなところが一番楽しかったですか?」と質問するのとでは、相手が抱く印象は天と地ほど違います。
後者の質問をされた相手は、「この人は自分の経験に関心を持ってくれている」と感じ、安心してさらに詳しい話をしてくれるでしょう。この「関心→安心→信頼」という心の動きが、相手との間に見えない橋(ラポール)を架け、深いコミュニケーションへの扉を開くのです。
質問力が高い人の共通点
あなたの周りにいる「この人と話していると、つい何でも話してしまう」という人を思い浮かべてみてください。彼ら・彼女らには、いくつかの共通点があるはずです。
- 強い好奇心を持っている: 「なんでだろう?」「どうしてそう思うんだろう?」と、常に相手の世界を知りたいという純粋な好奇心を持っています。
- 決めつけをしない: 「この人はこういう人だ」という先入観を持たず、常に新しい発見をしようというオープンな姿勢で話を聞きます。
- 聞き上手である: 質問するだけでなく、相手の話に真摯に耳を傾け、適切な相槌や表情で「聴いていますよ」というサインを送ります。
質問力とは、単なるテクニックではありません。相手を尊重し、その人の世界を理解しようとする知的な好奇心と謙虚な姿勢の表れなのです。
ナラティブ・クエスチョンとは?
それでは、この記事の核心である「ナラティブ・クエスチョン」について、その正体を詳しく見ていきましょう。
ナラティブの意味と心理学・カウンセリングでの使われ方
「ナラティブ(Narrative)」とは、日本語で「物語」や「語り」と訳されます。
ナラティブ・アプローチという心理学の考え方では、「人は自らの経験を、意味のある物語として構成することで世界を理解している」と捉えます。私たちは、ただバラバラの出来事を経験しているのではなく、それらを線で繋ぎ、自分なりの解釈を加えて「私の人生」という一つの物語を紡いでいるのです。
カウンセリングの現場では、相談者が語る「行き詰まった物語」に耳を傾け、質問を通して、その物語の別の側面や、まだ語られていない新たな可能性に光を当てます。そうすることで、相談者自身が自分の物語を肯定的に書き換えていく手助けをするのです。
オープンクエスチョンとの違い
「ナラティブ・クエスチョン」と似たものに「オープンクエスチョン」があります。オープンクエスチョンは、「はい/いいえ」で終わらない質問(5W1Hなど)のことで、会話を広げる基本として非常に重要です。
ナラティブ・クエスチョンは、このオープンクエスチョンをさらに一歩深めたものと考えると分かりやすいでしょう。
- オープンクエスチョン: 主に「事実」や「情報」を引き出す。
- 例:「(旅行の話で)どこへ行ったのですか?」「いつ行ったのですか?」
- ナラティブ・クエスチョン: その事実の背景にある「感情」「経験」「価値観」「意味づけ」といった物語を引き出す。
- 例:「その旅行は、あなたにとってどんな経験になりましたか?」「その風景を見て、どんなことを感じましたか?」
オープンクエスチョンが物語の「あらすじ」を尋ねるものだとすれば、ナラティブ・クエスチョンは物語の「テーマ」や「登場人物の心情」を尋ねるもの、というイメージです。
なぜ相手が話しやすくなるのか(物語思考の効果)
ナラティブ・クエスチョンをされると、相手はなぜ気持ちよく話せるのでしょうか。それには、人間の「物語思考」という性質が関係しています。
人は、自分の物語を語ることが好きです。自分の経験を誰かに話し、それを興味深く聞いてもらえると、自分の人生が肯定されたような感覚になり、自己肯定感が高まります。また、話しながら自分の経験を物語として再構成する過程で、頭の中が整理され、自分でも気づかなかった自分の感情や価値観に気づくこともあります。
つまり、ナラティブ・クエスチョンは、質問者だけでなく、答えを話している相手にとっても、非常に有益で心地よい時間になるのです。だからこそ、相手は「この人ともっと話したい」と感じ、自然と心を開いてくれるのです。
ナラティブ・クエスチョンの作り方
では、具体的にどうすればナラティブ・クエスチョンを作れるのでしょうか。ここでは4つのポイントをご紹介します。
事実ではなく背景を尋ねる
相手の発言に含まれる「事実」だけを追うのではなく、その事実が起こった「背景」や「文脈」に焦点を当てましょう。
- 事実を尋ねる質問:「転職されたんですね。次の会社はどこですか?」
- 背景を尋ねる質問:「転職という大きな決断をされた背景には、どんな想いがあったのですか?」
- 事実を尋ねる質問:「その映画、見たんですね。面白かったですか?」
- 背景を尋ねる質問:「その映画のどんなところが、特に心に響きましたか?」
感情と経験に焦点を当てる
出来事そのものよりも、それを体験した相手が「どう感じたか」「どんな経験だったか」を尋ねることで、会話は一気に深まります。
- 出来事を尋ねる質問:「プレゼン、どうでしたか?」
- 感情・経験を尋ねる質問:「大きなプレゼンを終えられて、今、率直にどんなお気持ちですか?」
- 出来事を尋ねる質問:「昇進したそうですね。」
- 感情・経験を尋ねる質問:「そのポジションに就いたことで、ご自身のキャリアにとってどんな意味があると感じていますか?」
過去→現在→未来の流れで質問する
物語には時間軸があります。相手の物語を深く理解するために、過去・現在・未来を繋ぐ質問をしてみましょう。
- 過去(きっかけ・原点):
- 「そもそも、その仕事を始めようと思われたきっかけは何だったのですか?」
- 「その価値観を持つようになった原体験のようなものはありますか?」
- 現在(やりがい・葛藤):
- 「今、そのお仕事で一番やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?」
- 「逆に、最も難しいと感じる部分はどこですか?」
- 未来(ビジョン・夢):
- 「今後、どんなことに挑戦していきたいとお考えですか?」
- 「5年後、ご自身がどんな風になっていたら理想ですか?」
この流れで質問することで、相手の人生という壮大な物語の一端に触れることができます。
「はい・いいえ」で終わらない質問文の型
以下のテンプレートは、様々な場面で使える万能なナラティブ・クエスチョンの型です。ぜひ覚えて使ってみてください。
- 「~について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
- 「その時、具体的にどんなお気持ちでしたか?」
- 「~という経験は、あなたにとってどんな意味がありましたか?」
- 「~という考えに至った背景には、何があったのですか?」
- 「その中で、最も印象に残っているエピソードは何ですか?」
場面別・心を開く質問例
ここからは、具体的な場面で使えるナラティブ・クエスチョンの例を豊富にご紹介します。
初対面・雑談での質問例
関係性がまだ浅い段階では、相手の負担にならない、ポジティブな物語を引き出す質問が有効です。
- (出身地の話で)「〇〇ご出身なんですね。その街のどんなところがお好きですか?」
- (趣味の話で)「すごいですね!その趣味を始められたきっかけは何だったんですか?」
- (休日の過ごし方の話で)「お休みの日は、どんな風に過ごされている時が一番リラックスできますか?」
- (好きな食べ物やお店の話で)「そのお店(食べ物)には、何か特別な思い出があったりするんですか?」
職場・商談での質問例
相手の仕事に対する価値観やビジョンを引き出すことで、単なるビジネスパートナーを超えた信頼関係を築くことができます。
- 「〇〇さんは、このお仕事のどんなところに一番のやりがいを感じていらっしゃいますか?」
- 「これまでで、最も『この仕事をしていて良かった』と感じたプロジェクトやエピソードはありますか?」
- (相手企業の強みを聞いて)「その強みは、どのような努力や歴史の中から生まれてきたのでしょうか?」
- 「今後、御社がこの業界でどのような存在になっていきたいか、ビジョンをお聞かせいただけますか?」
インタビューや取材での質問例
対象者の人柄や哲学、まだ語られていない本音に迫るための質問です。
- 「その大きなご決断をされた時、その裏側ではどのような葛藤や想いがあったのでしょうか?」
- 「これまでのキャリアの中で、ご自身の転機(ターニングポイント)となった出来事について教えてください。」
- 「〇〇様を突き動かしている、最も根源的なモチベーションとは何でしょうか?」
- 「もし、10年前のご自身に声をかけるとしたら、どんな言葉を伝えますか?」
友人・恋人との深い会話に使える質問例
すでに関係性のある相手と、さらに心を通わせ、絆を深めるための質問です。
- 「最近、一番心が動いたことって何だった?」
- 「子供の頃、どんなことに夢中になっていたか、改めて聞かせてほしいな。」
- 「もし何でもできるとしたら、一番挑戦してみたいことって何?」
- 「私たちの関係の中で、あなたが一番大切にしたいと思っていることは何かな?」
- 「私と出会ったことで、あなたの人生に何か少しでも良い変化はあった?」
ナラティブ・クエスチョンを効果的に使うコツ
素晴らしい質問を用意しても、使い方を間違えると効果は半減してしまいます。ここでは、質問の効果を最大限に引き出すための4つのコツをお伝えします。
沈黙を恐れない
良い質問を投げかけると、相手は答えを探すために考え込み、会話に「間」が生まれることがあります。この「沈黙」は、相手が真剣に自分の内面と向き合っている証拠であり、むしろ歓迎すべきサインです。
多くの人はこの沈黙が気まずくて、つい別の話題を振ったり、自分の話をし始めたりしてしまいます。しかし、それは相手の思考を中断させてしまう行為です。相手が話し始めるまで、焦らず、穏やかな表情で待ちましょう。その沈黙の先に、相手の深い物語が待っています。
相手の言葉を繰り返して深掘りする
相手が話してくれた言葉の中に、物語の鍵となるキーワードが隠されていることがよくあります。その言葉を繰り返す(バックトラッキングする)ことで、さらに話を深掘りできます。
相手:「あのプロジェクトは、本当に『試練』でしたね…」
あなた:「『試練』、ですか。その『試練』という言葉について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」
相手:「なんだか、すごく『腑に落ちた』感覚があったんです。」
あなた:「『腑に落ちた』。具体的に、どんなことが腑に落ちたのでしょう?」
このように、相手の言葉を尊重しながら質問を重ねることで、相手は「しっかり聴いてくれている」と感じ、より安心して話を続けることができます。
相槌・表情・姿勢で安心感を与える
コミュニケーションの半分は、言葉以外の非言語的な要素で成り立っています。ナラティブ・クエスチョンを投げかける際は、全身で「あなたの話を聴きたい」というメッセージを送りましょう。
- 相槌: 「はい」「ええ」だけでなく、「へえ!」「そうなんですね!」「面白いですね!」など、感情を乗せた相槌を打つ。
- 表情: 穏やかな笑顔を基本に、相手の話の内容に合わせて驚いたり、頷いたり、表情を豊かにする。
- 姿勢: 少し前のめりの姿勢で、相手の目を見て話を聞く。腕を組んだり、そっぽを向いたりするのはNG。
これらの非言語的なサインが、相手にとって「ここは安心して話せる場所だ」という安全基地を作るのです。
質問の意図を押し付けない
ナラティブ・クエスチョンは、相手の物語を引き出すためのものですが、それはあくまで相手が「話したい」と感じる範囲内で行うべきです。
こちらが聞きたい感動的な物語や、面白いエピソードを引き出そうとして、質問を誘導したり、相手が話したくなさそうなことをしつこく聞いたりするのはやめましょう。
質問は、相手の世界を照らす「懐中電灯」のようなものです。どこを照らすかは、あくまで相手に委ねる。その謙虚で尊重する態度が、結果的に相手との信頼関係を最も深めるのです。
やってはいけない質問の例
最後に、良かれと思っていても、相手の心を閉ざしてしまうNGな質問の例を知っておきましょう。
誘導的な質問
自分の意見に同意させようとする質問です。これは質問ではなく、実質的な「押し付け」です。
- NG例:「このプランは素晴らしいと思いませんか?(=素晴らしいと思え)」
- NG例:「普通はこう考えますよね?(=あなたもそう考えろ)」
プライバシーを急に踏み込む質問
関係性ができていない段階で、相手のプライベートな領域に土足で踏み込む質問です。
- NG例:「ご結婚はされているんですか?」
- NG例:「お給料はどれくらいなんですか?」
相手を試すような質問
相手の知識や能力を試したり、マウントを取ったりするような意図が透けて見える質問です。
- NG例:「〇〇について、当然ご存知だと思いますが、どうお考えですか?」
- NG例:「そんなことも知らないんですか?」
まとめ|会話を深めるカギは「物語を聴く」姿勢
この記事では、相手の心を開き、会話を劇的に豊かにする「ナラティブ・クエスチョン」について、その本質から具体的な作り方、実践例までを詳しく解説してきました。
- 質問力は会話の要: 会話は「話す」より「引き出す」ことが重要であり、良い質問が信頼関係を築く。
- ナラティブ・クエスチョンとは: 事実の背景にある「感情・経験・意味」といった相手の物語を引き出す質問。
- 作り方のコツ: 背景・感情・時間軸を意識し、「はい・いいえ」で終わらない型を使う。
- 効果的な使い方: 沈黙を恐れず、相手の言葉を繰り返し、非言語的なサインで安心感を与えることが大切。
ここまで読んでくださったあなたに、今日からすぐに試せるナラティブ・クエスチョンを一つ、プレゼントします。
「最近、何か『面白い』と感じたことはありますか?その時、なぜ面白いと思ったんですか?」
このシンプルな質問には、「事実」と、その背景にある「感情・理由」を尋ねるナラティブの要素が含まれています。ぜひ、ご家族や友人、同僚に投げかけてみてください。きっと、いつもとは少し違う、その人らしい物語が聞けるはずです。
最後に、最も大切なことをお伝えします。
ナラティブ・クエスチョンは、単なる会話の「テクニック」ではありません。その根底にあるのは、「あなたの世界を知りたい」という、相手への純粋な好奇心と敬意です。
この「物語を聴く」という態度さえあれば、たとえ言葉が拙くても、あなたの想いは必ず相手に伝わります。テクニックを磨くこと以上に、相手を尊重する心を育むこと。それこそが、あなたの会話力を、そして人間関係を、根底から変えるための最も確かな道筋なのです。

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